皆川猿時が語る、盟友・阿部サダヲ&宮藤官九郎へのリスペクト、過酷だった減量20キロ│『いだてん』インタビュー (1/3)
日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。
第2部では、田畑政治(演:阿部サダヲ)が率いる水泳日本代表チームがオリンピックで目覚ましい活躍を繰り広げます。水泳総監督・田畑の下で、監督として水泳選手たちを引っ張るのは日本泳法の達人であり、その後も指導者として日本水泳の発展に貢献した松澤一鶴。演じるのは、阿部サダヲさん、宮藤官九郎さんと同じ劇団・大人計画で長年活動を続けている皆川猿時さんです。
都内で行われた合同インタビューでは、盟友の阿部さんのこと、宮藤さんの意外な素顔、過酷だった撮影の舞台裏などが明かされました。
《続々更新中!いだてん出演者インタビュー》
●菅原小春×大根仁。日本女子スポーツのパイオニア・人見絹枝をいかにして演じたのか
●阿部サダヲ「暗くなりがちな時代だからこそ、スポーツを通して明るくなってほしい」
●黒島結菜「女子がスポーツに目覚める時代。この役を演じることができて良かった」
●森山未來「いかにして稀代の落語家を演じるのか」
[プロフィール]
●皆川猿時(みながわ・さるとき)
1971年2月1日生まれ、福島県出身。松尾スズキが主宰する「大人計画」に所属。テレビドラマ、映画、舞台にて、数々の作品に出演する。主な出演作に、連続テレビ小説『あまちゃん』(ドラマ/NHK)、『初めて恋をした日に読む話』(ドラマ/TBS)、『あなたの番です』(ドラマ/日本テレビ系)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(映画)、『土竜の唄 香港狂騒曲』(映画)、『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』(映画)など。阿部サダヲや宮藤官九郎、三宅弘城らと活動するバンド「グループ魂」では港カヲルとしてMCを担当している。●松澤一鶴(まつざわ・いっかく)
日本泳法の達人であり、学生時代は中・長距離自由形の選手として活躍。東京帝大在学中に、田畑政治らとともに「大日本水上競技連盟」(のちの日本水泳連盟)を設立し、以降、指導者として日本水泳の発展に貢献する。愛称は「カクさん」。明るく豪放な一面と、冷静沈着で理論的な一面の両方を持ち合わせ、親分肌の田畑とは良いコンビだった。
【あらすじ】第29回「夢のカリフォルニア」(8月4日放送)
いよいよロサンゼルス・オリンピックが開幕。日本水泳チームの総監督として現地に乗り込んだ田畑政治(阿部サダヲ)は、広大で美しい選手村で各国の選手たちが交流する姿を見て、これぞスポーツの理想郷と感激するが、その一方で日系人差別も目の当たりにするなど複雑な思いも抱く。全種目制覇を絶対の目標とする田畑は、本戦に出場するメンバー選びで非情な判断を下し、高石勝男(斎藤工)ら選手との間に軋轢を生む。田畑の執念は実を結ぶのか──。
20kgの減量と、毛も剃りました
―― 撮影がスタートする前に、20kgも減量したと聞きました。
最初は「(伝説のスイマーを若い頃から演じるために)25kg痩せてほしい!」って言われたんです。でも、なんか嫌だなぁって思って「キリが悪いんで20kgでどうでしょう」ってお願いしたら「じゃあ20kgで!」ってことになりまして(笑)。言ってよかったです。そこから約4か月かけて108kgから88kgまで落としました。あと「全部、毛も剃ってくれ!」と。
で、台本を読んだら、最初の登場シーンが20代の中盤なんですよ。おい、ちょっと待てよと。本当に「俺でいいのかい」って(笑)。でもまぁ、こんな機会はめったにないんで、もうね、久しぶりに頑張りました(笑)。結果、ちゃんと20kg痩せて、毛も全部剃って、水泳の練習もして。おかげさまで若い時代の撮影は無事に終わったんですけど、油断しているんでしょうね、そこから7kg増えちゃいまして、いまは95kgでお送りしています(笑)。具体的に、何kg痩せてくれとか毛を全部剃れとかって言われたのは初めてなので、大変でしたけど良い経験でした。それが芝居に、良い方向に作用しているのかどうかはわからないですけど、健康になりました(笑)。
―― 水泳選手の気持ちが理解できた部分はありましたか。
僕が練習したのは、日本泳法っていう、泳ぎ方でして。足も、いわゆるバタ足じゃなくて、あおり足って言って近代の泳ぎ方とはけっこう違うんですよ。まず先生から「日本人は昔、海洋民族だった」というお話から始まり、キーワードが9つあったんですけど、すみません忘れちゃいました(笑)。「水の中って楽しい、って思ってもらえたら、私たちとしては大成功です」と。熱心に指導していただきましたが、日本泳法は本当に難しくて、練習中に何度もくじけそうになりました。
そんなわけで、日本泳法を披露するエキシビションのシーンが、僕の中ではハイライトでした。とにかく、ここの撮影を頑張るっていう。みんな同じ目標に向かって頑張っていましたから、自然と結束していきました。終わったら泣いちゃうパターンのやつですよね。でもねぇ、撮影が4月の頭で、ちょうど寒の戻りが来た時期で、愛知県の屋外プールでの撮影だったんですけど、気温一桁ですよ(笑)。しかも夜だし、温水プールなのに全然冷たいし。「うそでしょ?」みたいな。その翌日の夜も撮影して。だから「やったー大成功!」みたいな達成感よりも「終わって良かったぁ」っていう安堵感の方が強くて(笑)。若い人たちは、多少は達成感あったのかもしれませんけど、歳とってますからね、僕と阿部くんは。「死ななくてよかったね」って(笑)。
アスリートへの見方が変わりました
―― 日本代表の水泳選手は、現在も活躍しています。松澤さんは当時、監督としてどのような気持ちだったのでしょうか。
松澤さんは温水プールをつくったり、まったくお金にならないのに「強い水泳選手を育てたい!」という信念だけで、何の見返りも期待せず、純粋に後輩の指導にあたっていたんだと思います。本当に水泳が好きだったんでしょうね。その中に、田畑さんという人もいて。二人の関係もおもしろいですよね。田畑さんに言われたら断れない感じとか(笑)。深い部分でつながっていたんだと思います。
劇中で「まーちゃん(田畑政治)はすごい人なんだ」と、斎藤工くん(日本水泳界の大スター、高石勝男役)に対して熱く語る場面があるんですけど、松澤さんはうまく伝えられないんですよね、まーちゃんの魅力を。まーちゃんのことが好き過ぎて、わかんなくなっちゃったんでしょうね(笑)。好きなシーンです。
―― 今回の役柄を演じてみて、松澤一鶴さんはどんな人物だと思いましたか。アスリートに対する見方は変わりましたか。
松澤一鶴さんは、秀才コースを歩んできた人です。プロデューサーさんからは「理系の大卒の役ですから」と。「いつもの感じの芝居じゃ困ります」と、ええ、はっきり言われました(笑)。しかも、日本泳法の神様みたいな人ですから。演じる前から非常にエネルギーが必要でした。水泳の練習は1日だいたい2時間って感じだったんですけど、本当にきつかったですね。練習終わったら、すっごく眠くなるんです。一緒に練習していた若い俳優の中に、元オリンピック候補選手だった人もいたんですけど、彼は現役の頃、1日8時間泳いでたんですって。いやいや8時間って(笑)。僕にはちょっと想像できないです。泳いだあと、どのくらい眠くなるのかも想像できません。アスリートに対する見方?そりゃもう、変わりました。尊敬しかありません。