インタビュー
2022年7月8日

ビーチフラッグスってどんな競技?世界ランキング1位・堀江星冴選手に聞いた競技の魅力と、ライフセーバーとしての想い(前編) (1/2)

 浜辺でうつ伏せになり、そこからダッシュで20m先の旗を奪い合うライフセービングスポーツ「ビーチフラッグス」。浜辺でやった、もしくは観たことがあるという人も多いのではないでしょうか。昔はテレビ番組でもよくやっていたので、懐かしいなと感じる人もいるでしょう。

 今回は、あらためてライフセービングとはなにか、またビーチフラッグスという競技について、ライフセーバー2019⽇本代表・ビーチフラッグス世界ランキング1位の堀江星冴選手に魅力を伺いました。

水辺の事故ゼロを目標に、日々トレーニングを積んでいます

――ライフセービングについて教えてください。

ライフセービングは、「救命活動」と「スポーツとしての競技」の2つに大きく分かれています。まず救命活動ですが、これは水辺の事故ゼロを目的とした夏の監視活動で、無事故達成を目標にして活動しています。そしてスポーツとしては、救助力向上を目的とした“ビーチフラッグス”という競技があります。

水辺の事故は、全世界において約1分に1人のペースで亡くなると言われています。日本で言うと、水辺の事故が発生したときの死亡者数は、地上の事故よりも高いというデータもあるほど。

自然が相手なので、僕ら人間が立ち向かうというのは大変ではありますが、それでも理想を掲げ、少しでも水辺の知識を増やして、理念や目標に向かって進みたいなというふうに思っています。

――ライフセービングの協会みたいなところがあるのでしょうか。

公益財団法人日本ライフセービング協会(JLA)があります。その協会に入り、僕は勝浦ライフセービングクラブに所属しています。江ノ島のライフセーバー、伊豆のライフセーバーなど、それぞれの浜に所属するかたちです。

――活動するシーズン、期間はどのくらいですか?

ライフセーバーとしての監視活動は、8月をメインに7月末~9月上旬ぐらいですね。ビーチフラッグスは、だいたい6月~10月がスポーツシーズンです。浜辺だけではなく、たとえば日常の電車で困っている人がいたときに助けることなどもライフセービングです。救助力向上を目的としたトレーニングが活きてくるところですね。安心感を与えるためにも日々トレーニングを積んでいます。

大切な人になにかあっても何もできないのは嫌だ……そう思ったらもうライフセービングに惹かれていた

――堀江選手がライフセービングと出会ったきっかけを教えてください。

今まで海にあまり関わってこなかったので、ライフセーバーというものを知りませんでした。埼玉県の秩父に生まれて、ずっとサッカーやっていたので。千葉県の勝浦にある大学に進学しまして、そのときに部活動紹介で初めてライフセーバーを知りました。

その部活動紹介のVTRで、人命救助の映像と一緒に「あなたは大切な人の命を守れますか?」という言葉が流れたんですね。小学生のとき、兄が熱中症で倒れたことを思い出しました。目の前で意識を失う人を初めて見たので、怖くなっちゃったというか驚きが大きくて、何もできなかったんです。泣いちゃったり、震えたりして、そういう情けない自分が記憶に蘇りました。

それがフラッシュバックして、ビビッときましたね。本気でプロのサッカー選手を目指してきたのですが、その場でキッパリとライフセービングをやろうと。大学って転換期でもあるじゃないですか。親元を離れたというのもありましたしね。

今後生きていくうえで、また大切な人に危険が迫っても何もできないなって本当に思って。ライフセービングの人命救助に惹かれたんです。

――部活動紹介の中にビーチフラッグの紹介はありましたか?

いいえ。救助活動のために部活に入ったら、競技会があるって言われて。正直、サッカーで生きていくのを辞めた時点で、競技者はもういいかなって思っていたところだったので、あまり最初は「やるぞ!」という感じではなかったです。

まあ、とりあえず東日本予選会に出ようと。そこで予選会を突破することができて、全国に進みました。準決勝までは進めたのですが、それ以上はやっぱり極めている人たちとのレベル差を感じましたね。でも、そこでビーチフラッグスの楽しさを知りました。

フラッグを要救助者に見立てて、いち早く駆けつける

――ビーチフラッグスとはどんな競技か教えてください。

ビーチフラッグスは、砂浜の上で20m先の旗を奪い合うシンプルな競技です。競技者が10人いた場合、9本の旗を取り合って人数が減っていき、決勝までいくと2人で1本の旗を競い合います。

僕らは旗を要救助者に見立ててやっています。決勝を狙っていく中で、より多くの要救助者を救い出す。レース時は「俺が守るぞ!」という気持ちですね。フラッグを取るというよりは守るという想いでやっています。いち早く要救助者のところへ駆けつけるというイメージですよね。救助力向上のための大会なので、1本でも多くとったら1人でも多くの要救助者を救ったことになる、そういう想いで競技を行っています。

――ビーチフラッグスの競技としての魅力を教えてください。

陸上競技では100mで短距離と言われていますが、ビーチフラッグスは20mの超短距離なので、トップの試合だと、3秒で決着がつくんです。3秒でレースが決まるというところ、その3秒のために僕らはすべてを懸けてトレーニングをしています。

陸上の100m走は、走る中でさまざまなフェーズに分かれていますが、ビーチフラッグスはもう加速しかない。いかに早く加速できるかというところが、とてもしびれますね。短距離100mの世界記録保持者のボルトさんと勝負しても、ビーチフラッグスでは負けません!

あとは、砂場が舞台ということで、足を踏み込むたびにコンディションが違うのも、競技として面白いところですね。

――スタート前はどういう心境ですか? 一瞬で決まってしまいますよね。

それこそレスキューが根元なのでフライングは一発アウトです。でも0.01秒でも前に入られちゃうと、遅れてしまいます。スタートで決まっちゃうので。スタート前はすごく集中しています。

スタートは笛の合図なのですが、聴覚を研ぎ澄ませている感じです。無心です。逆に考えたりしたら遅れますね。

――フラッグを取ったときというのはどういう心境ですか?

よろこびというよりは、達成感。「僕が最初にたどり着いたぞ!」みたいな。まわりの人が見えないというか、ゾーンに入るというか。いかにきちんとキャッチするかのみ考えるので、相手との駆け引きというより、自分との戦いみたいなイメージです。

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