フィットネス
2023年5月15日

激キツトレ―ニングとゆっくり有酸素運動、どっちが痩せる?最新研究から考えてみた

 「高強度インターバルトレーニング:High-Intensity Interval Training(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)」、通称HIIT(ヒット)は、アスリートたちが心肺機能を高めるために用いてきたトレーニング方法です。

 しかし最近では、ダイエット志向の人にも広く知られるようになりました。短時間でも多くの脂肪燃焼効果が望めるうえ、多種多様な運動を組み込むことで飽きにくいことが高い人気に繋がったのでしょう。

 ところが昨年あたりから、その反動のようなものが出てきたようです。伝統的な緩やかな有酸素運動(散歩、ジョギング、水泳、サイクリングなど)のダイエット効果を見直す記事が、フィットネス関係のメディアでよく見られるようになりました。

 あるいはHIITでも、きつくない程度の穏やかな強度で行うこと(HIITの字義からすると形容矛盾なのですが)を推奨する指導者も増えているようです。

関連記事:低負荷の有酸素運動トレーニング「LISS」とは。HIITと同じダイエット効果も

従来のHIIT研究の落とし穴

 HIITが従来の有酸素運動より脂肪燃焼効率が高いことはよく知られています。しかし、その根拠となった研究のほとんどが、同じ頻度で同じ時間のエクササイズをした場合を仮定して、HIITと有酸素運動の効果を比較したものでした。たとえば以下のような研究です。

「被験者らを2グループに分け、あるグループはHIITを、別のグループには有酸素運動を、1回30分、週3回、12週間に渡ってトレーニングをしてもらい、体重や体脂肪率などの変化傾向をグループ間で比較する」(これはあくまでも一例です)

 学術研究では同じ条件で比較しないと証明にはなりません。そのため、こうした手法が用いられることは理にかなっています。しかし実は、あまり現実的な比較ではありませんでした。机上の空論とまでは言いませんが、実際にHIITか有酸素運動を行う人の実態を表したものではなかったのです。

 なぜなら、HIITは短い時間で高い効果を期待できますが、その反面で疲労度も大きく、筋肉痛になることも多くあります。そのため、それほど頻繁にHIITを行うことは、普通の人にはなかなかできないからです。

トレーニングできる現実的な頻度とは

 HIITの代名詞のように呼ばれることもあるクロスフィットでは、トレーニングを行う頻度として「3オン1オフ」あるいは「5オン2オフ」を提唱してきました。前者は3日連続してトレーニングして1日休む、後者は平日5日間連続してトレーニングして週末の2日は休むという意味です。

 しかし、このペースでクロスフィットに通い続けることができる人はほんの一握り。トレーナーとしての経験から言えば、ほとんどの人は週3回程度がクロスフィットに通える限度ではないでしょうか。2~3か月程度の短期間なら続けることはできても、ダイエットという観点からすると、それではあまり意味を成しません。

 その点、散歩やジョギングを毎日のように行っている人は世の中に多く見られます。こうした緩やかな有酸素運動は、時間ごとのカロリー消費量で見るとHIITより低いかもしれません。しかし、実際に行うことができる頻度を考慮に入れると、トータルの量では逆転することも大いにあり得るというわけです。

週3回のきついHIITと、週5回の穏やかな有酸素運動の効果を比較した研究

 2020年12月にカナダ・オンタリオ州の研究者らがスポーツ医学学術サイトに発表した論文(*1)では、今までとは異なるユニークな視点からの実験が紹介されました。タイトルの通り、週3回のきついHIITを行うグループと、週5回の穏やかな有酸素運動を行うグループのトレーニング効果を比較したのです。以下にその内容を簡単に紹介します。

<研究方法>
・被験者は、23人の運動習慣が少ない肥満ぎみの男性
・観察期間は6週間
・被験者はHIITトレーニングを行うグループAと、有酸素運動を行うグループBに分けられた
・グループA(HIIT)は固定自転車を30秒連続、2分の休息を挟んで4~6セットのトレーニングを週3回行った。1週間あたりの運動時間は1時間未満。
・グループB(有酸素運動)は、固定自転車をゆっくりしたペースで30~40分のトレーニングを週5回行った。1週間あたりの運動時間は2.5時間以上。
・観察期間の前後に、有酸素能力や体重および体脂肪率などの体組成指標、血圧などの健康診断結果を測定。

<研究結果>
両グループともに有酸素運動能力と耐糖能が向上したが、グループB(有酸素運動)のみに血圧が下がり、腹部の脂肪が減少するなど心血管疾病リスクの改善が認められた。

有酸素運動のダイエット効果を見直すべき?

 前述の研究結果を素直に解釈すると、週3日のHIITをするより、週5日の緩やかな有酸素運動をする方が健康に良く、体脂肪も減らせるという結論です。

 もちろん、この研究にも限界があります。サンプル数が23人と少なく運動不足の男性のみに限られていますし、6週間という観察期間も短すぎるような気も。そのため、これだけでHIITより有酸素運動の方が痩せるという結論を出すのは早過ぎるかもしれません。

 ただしHIITをもてはやすあまりに、伝統的な有酸素運動の効果が劣ると決めつけていた風潮は改められるべきではないでしょうか。トレーナーでもある筆者からの提案は、「HIITも有酸素運動も両方やりましょう」です。

参考文献:
*1.Endurance and Sprint Training Improve Glycemia and VO2 peak, but only Frequent Endurance Benefits Blood Pressure and Lipidemia

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text & Photo:角谷剛/Photo:Getty Images>