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運動は体にいい?やり過ぎると体に悪い?研究調査から考えてみる

 過度な運動は健康に悪いという説をよく目にします。「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉に代表されるように、きつすぎる運動より無理をしない程度の運動の方が長生きにつながるというのが一般的なイメージではないでしょうか。

 ところが最近発表された学術論文では、非常識とも呼べるほど過激な量のトレーニングを積む人でも、健康的と思われる程度の運動をする人と比べても死亡率はさほど変わらないという結論を出しています。これはテキサス州ダラスに拠点を置くクーパー研究所所長らが、2019年11月にアメリカ心臓協会へ発表したものです。

研究の内容

 日常的に運動をする習慣があり、過去に心臓病の疾患歴がない健康な2154人の男女(女性が28%、平均年齢52.1歳)を研究対象に、運動歴の質問やトレッドミルによる運動テスト、そしてCTスキャンを行いました。この研究では1週間に行う運動量が3,000~9,999 MET x分の範囲に収まる人を「高度な運動量」グループ(2088人)、同値が10,000 MET x分以上の人を「過激な運動量」グループ(66人)に分類しています。

運動強度を測るMETとは

 METとは「Metabolic Equivalent」の頭文字で、運動をすることによって消費されるエネルギー、つまり運動の強度を示す指標です。人間はただじっと安静に座っていたときでも生命を維持するためにエネルギーを消費しますが、その安静時の強度を1METとし、運動の種類によってその何倍になるか示しています。

 以下は「Medicine & Science in Sports and Exercise」という、米国の学術雑誌に発表された一覧からランに関する項目を抜粋したものです。

3.0 MET:散歩(時速4キロ)
9.0 MET:ゆっくりしたジョグ(時速8.4キロ)マラソン5時間ペース
10.5 MET:ジョグ(時速10.8キロ)マラソン サブ4時間ペース
11.8 MET:ラン(時速12.9キロ)マラソン サブ3時間半ペース
12.8 MET:ラン(時速14.5 キロ)マラソン サブ3時間ペース

関連記事:身体活動基準「METs(メッツ)」&「Ex(エクササイズ)」とは。メタボ予防に効果的な運動量も解説

 当然のことながら、走るならペースが速ければ速いほど運動強度指標であるMETの値は大きくなります。誤差を承知で、上記で「過激な運動量」グループの条件とされる1週間で10,000 MET x 分を1キロ6分ペースのジョグに当てはめると、以下のようになります。

1週間のジョグ(分):10,000 MET x 分 / 10 MET = 1,000 分(16時間40分)
1週間のジョグ(距離):1,000分 / 6キロ = 166.7 キロ

 1週間に166.7キロ走るということは、毎日休みなく走ったとして1日平均で約23. 8キロになります。つまりジョグペースとはいえ、7日間連続でハーフマラソン以上の距離を走るということ。あるいは、1週間のうちにフルマラソンを4回走るということになります。

 これらはすべてをジョグペースで走ったと仮定する机上の数字ですので、実際に行う運動の種類や強度によって距離や時間は異なります。それでも、1週間で10,000 MET x 分というものが「過激な運動量」と定義されることは理解できるでしょう。そして驚くべきことに、この数字はこのグループに分類される最低条件なのです。実際の同グループの平均値は13921 MET x 分でした。

 一方で「高度な運動量」を同じ計算式に当てはめると、1日あたりの平均走行距離は最低でも7.1キロのジョグになります。なお、この研究で対象になったのは、これらの運動量を平均で25年以上続けている人たちです。

研究の結果は「運動量は健康リスクや死亡率に影響しない」

 研究の結果、「高度な運動量」グループと「過激な運動量」グループの間には、心血管の疾患率にもすべての原因による死亡率にも有意な差はありませんでした。約10年間の追跡調査でも「過激な運動量」グループに属する66人のうち死亡したのは2人だけ。心血管疾患が原因で死亡した人はいません。論文著者らは過激な量の運動は心血管疾病も、あらゆる原因の死亡率も押し上げる要因にはならないと結論で述べています。

運動量を減らす理由にはならなさそう

 思わずトレーニングをやり過ぎてしまう人には朗報ではないでしょうか。もちろん、この研究で対象とされたのは運動量が心血管の健康や死亡率に及ぼす影響についてであって、オーバートレーニングによるパフォーマンスの低下や怪我のリスクなどは依然としてあります。また、人の3倍も4倍も運動したところで寿命が伸びるわけでもありません。

 ただ、どれだけきつい運動をしたところで寿命が削られるわけではないと、自分に言い聞かせてもよさそう。少なくとも、健康に悪いからと運動量を減らす言い訳は使えなくなりそうです。

関連記事:練習や筋トレのしすぎで起きる「オーバートレーニング症候群」とは。原因・症状・予防法を解説

参考文献:
Athletes Performing Extraordinary Physical Activity (>10,000 MET∙Min/Week) at No Greater Risk of All-Cause or Cardiovascular Disease Mortality.
DeFina, L. et. al. 2019
https://www.abstractsonline.com/pp8/#!/7891/presentation/30918

Compendium of Physical Activities
https://journals.lww.com/acsm-msse/Fulltext/2000/09001/Compendium_of_Physical_Activities__an_update_of.9.aspx

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
カリフォルニア在住。公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、コーチング及びスポーツ経営学修士(コンコルディア大学)、CrossFit L1 公認トレーナー、TVT高校クロスカントリー部監督、ラグナヒルズ高校野球部コーチ。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
 Facebook: https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text & Photo:角谷剛/Photo:Getty Images>

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