ロボットに道徳をインストールする。その原点は武道。Pepperに感情を与えた研究者・光吉俊二に聞く武道の魅力(後編) (1/2)
コミュニケーションをとることができる人型ロボット「Pepper」の感情エンジンを生み出した研究者、光吉俊二さん(東京大学工学系研究科特任准教授)。前編では現在のトレーニング方法から、知られざる光吉さんの青春時代(!?)まで語っていただきました。
後編では空手がもたらした学問への影響、またスポーツと学問と芸術における共通点からそれを取り巻く社会問題、今後スポーツ分野にAIがどのように介入していくかまでお伺いしました。光吉さんの切れ味鋭いコメントは必読です。
武人とは腕力が強い人ではなく争いを抑止できる人である
―前編で『空手で培った精神力は今でも研究に活きている』とおっしゃっていましたが、その他に空手やスポーツがもたらした影響はあるんでしょうか?
俺が研究している、ロボットに道徳をインストールする道徳感情数理工学の研究は武道が原点です。
―武道が原点というと?
もともと、武道とは戈(カ、ほこ)を止める道と書く。つまり、武道とは争いを抑止するためのもの。歴史上の最高頂点の武人とは戦争をなくした人なんです。
戦争をなくせるというのは、腕力が強いのではなく、戦争を起こさない社会を作れる人、武力を行使しない社会を作ることが本当の武道家のやることだと思っています。
戦争を起こす前に、相手の心と道徳を人種を超えて理解しあえるために道徳感情数理工学というものを立ち上げ、研究をはじめたんです。争いをなくすため、人と仲良くなるために相手と共感しあえる技術を作ろうという原点は武道からです。
―武力を行使しない社会を作るのが本当の武道家とは目からウロコです。稚拙な質問で恐縮ですが、本当の武道家とはどのようになれるものなのでしょうか?
修行です。ただ単純なことを繰り返していくしかない。年齢を重ねた武道家は体力や腕力では若い人には敵わないけど、若い人に勝つためには技を磨くことと、気の力が重要。鍛錬された人は気の力だけで若い人を倒せるけど、先ほども言ったけど気の力だけで倒すためには繰り返しの修行が必要なんです。背骨からへその下辺りに向かって気を吐き出せるようになるには何十年もかかるからね。
武道は体全部が一体化しているんです。パーツパーツを切り取って鍛えるなんて不可能ですよ。体をバランスよく鍛えることで、はじめて力が発揮される。本当の強さを身につけられると、いつでもにっこり笑ってられるようになるんですよ。なぜかといえば、自分は強いという確固たる自信がもてると、誰にでも優しく接することができるからなんだよね。
理解と寛容があってこその社会になるべき
―光吉さんは研究者や武道家としての一面だけではなく、芸術家としてもご活躍されていますが、この3つの分野で共通する点はありますか?