パラスポーツ界で珍しい実業団チームが生まれた理由 (2/2)
企業に価値を与え、地域から愛されるチームでありたい
実業団チームといえば、当然ながら競技成績を追求することが求められるでしょう。松永選手を含めた現在所属する3名の選手は、全員が日本代表クラスの実力を持ちます。身近な目標でいえば、やはり全員が2020年の東京パラリンピックに出場すること。しかしチームとして果たすべきものは、単に成績を残すことだけではないようです。
「成績を残すとともに、チームの継続的な運営が欠かせません。そのためには、まず地域の方々に知ってもらい、応援してもらえるようになることが大切です。たとえば岡山にはサッカーのファジアーノ岡山や女子バレーの岡山シーガルズなどがあります。私たちのチームも同様に、地域に愛されるチームでありたいですね」
発足以来、近隣地域では少しずつ知名度が上がってきたとのこと。おもに講演活動などを通じ、地域への貢献も行っているようです。さらに実業団チームという特性から、チームと企業との関わりについても伺いました。
「実業団として、チームの存在が企業にとって価値を持たなければいけないと思っています。たとえばCSRや従業員の満足度など。あるいは、営業する際にプラスの要素となるなど、チームとして企業に貢献できることは少なくありません。お互いがWin-Winの関係であってこそ、実業団チームといえるのではないでしょうか」
実業団という環境で競技できるからこそ、企業に対してもそれに見合う価値を提供する。あるいは、企業にとって価値を持つチームでありたいという、松永選手の強い思いを感じます。しかしスポーツ選手だからといって、ただ競技に没頭し、成績を残せばいいというものでもないようです。松永選手も含め、同チームの所属選手も半日以上は仕事を行っているそうです。
「私を含め選手たちは、9時から15時までは働いています。ただ競技のみ行うのではなく、企業人として仕事と競技のどちらもがんばります。仕事も競技も、やっぱり若いうちが伸びるんですよね。いい時期にいい経験ができるかどうかが大切。ですから所属選手には、スポーツ選手だけでなく企業人としても成長してほしいと思っています。特に引退後、セカンドキャリアについては、競技中から考えて取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。努力していれば、将来において安心できる結果が得られるはずです」
実業団を事業化し、収益を含めて企業価値を持つこと。自分たちがいることで常にプラスの影響が出るようになりたい。松永選手はチーム全体をマネジメントしつつ、5年や10年、さらにもっと先の未来までを見据えたチーム運営を考えているようです。ただのスポーツチームではなく、企業へ付加価値を提供し、そして事業としてあり続けること。所属選手の活躍はもちろん、チームが企業や地域にとってどのような存在へと成長していくのか、その未来が楽しみになりました。
・グロップサンセリテWORLD-AC
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[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com
<Text & Photo:三河賢文>