桐谷健太インタビュー「アスリートたちが五輪の舞台でパフォーマンスを見せる前に、すでにたくさんのドラマが始まっている」(いだてん) (3/3)
政治家も命がけの時代だった
――昭和史を描くドラマで、政治家を演じて感じることは。
政治家は、いろんなことを背負ってますよね。背負うべきだとも思いますし。その時代の政治家は、さっきも「顔がある」と言いましたが、めちゃくちゃパフォーマンス性というか、みんなを引き込むスター性、カリスマ性があったんだろうなぁと思う。きっと国民の政治に対する関心も、今よりももっと高かったのでは。現代でも、もっと投票率が上がって、スポーツ選手とか芸能人とかのように「政治家ってカッコいいよね」とみんなが思うようになって欲しいなと思いますね。そうしたら政治家も憧れの職業になって、政治家たちにも心構えができる。カッコいいことをしたい、みんなが喜ぶことをしたい、ともっと思えるようになったら良いなと思いましたけどね。
政治家も命がけの時代でした。実際に命を失っている人もいる。だから顔も、侍のような顔というか、ぬるくない、怖さのある顔になる。でも笑うと人懐っこくて。そんなイメージです。人間力がすごかったのではないでしょうか。
さきほどの風圧の話にもつながってきます。周りが圧を感じてしまう、思わず避けてしまう。命を賭けていたら、やっぱりそうなりますよね。そんな人が前から歩いてきたら、命を賭けられてない人は避けてまいます。そういうところが、カッコよかったんだろうな。
金栗から田畑にバトンが渡された
――河野は金栗さん、田畑さんとも交流がありました。2人の主役を見て思うところは。
河野は金栗さんのことを「先生」と呼ぶくらいに尊敬していますし、陸上の大先輩でもある。金栗さんは見ていてとても優しいし、本当に思いやりがあって、ちゃんと誰の前でもそれを遂行しようとする。そんなイメージがありますね。
田畑は思いやりがないわけじゃないんですが(笑)。思いがここにあるとするなら、脳みそを通さずにそれが飛び出てくる人。それが頼もしく感じることもあった。金栗さんにもできなかったような、例えば(高橋)是清さんからお金をもらうとか、みんなができなかったことを実行できる人。彼も、だから風穴開け小僧ですよね。それって絶対に反対意見が出る、ということをやってしまう。
金栗さんは、弱い人たちの方を見て発言できる人。田畑は反対されてでも直感で、良いと思ったことを恐れずに言える。猪突猛進で行き、やりたいことをやりきるというかね、走り切る。あ、金栗さんはレースで棄権もしているので走り切れていないところもあるんですが(笑)。でも金栗さんはどこかで田畑と通じるところがあって、空気感が全然違う田畑に思いのバトンを渡した、そんな風に思っています。
<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>