
走ると膝が痛い人へ。5つのエクササイズで痛み対策を|プロが教えるコンディショニング
- トレーニング
- 2022年5月30日
多くのランナーにとって、膝の痛みはもっともやっかいな悩みのひとつです。中には、走るということ自体が膝に悪い行為だと言う人までいます。確かに走ると膝に痛みを感じる人が多くいるのは事実でしょう。しかし実際には、走るという動作はむしろ膝の関節にいい影響をもたらすとする説も、最近では見聞きするようになりました。
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また、日常的に長い距離を走るランナーの方が、あまり走らないランナーより膝の痛みを経験する確率が低いことを発見した別の研究(*1)もあります。
それでもランナーに膝の故障が多いわけ
このように、ランニングは膝に悪くないとする臨床医学的データが存在します。それにもかかわらず、ランナーたちの間では膝の故障はいまだに珍しいものではありません。
2019年2月に『スポーツ科学と医学ジャーナル』に掲載された論文(*2)によると、ランナーが経験した故障のうち約28%が膝周辺で起きていて、これは身体のどの箇所より多いということです。また同論文は、膝周辺の故障は男性より女性に起こりやすいともしています。
膝の故障、もっとも多い原因は
故障の原因としては、急に走行距離を増やす、ペースが速すぎる、休息が足りないなど、いわゆる「走り過ぎ」による蓄積疲労が最初に挙げられます。この他に、ランニングフォームが原因で膝に不自然な負担がかかっている可能性もあるでしょう。あるいは体重が重すぎて、膝が負荷に耐えられていないことも考えられます。
膝を故障してしまったランナーは、こうした要因に一つずつ向き合っていくしかありません。そして、それらへの対策を行うと同時に、膝を支える筋肉群の筋力を向上させることも故障からの回復を早め、再発を防ぐために有効です。
膝を支える筋肉群をバランスよく鍛えるとよい
言うまでもないことですが、膝は腰と足先の真ん中部分にある関節です。走る動作サイクルにおいて膝はその動きの中心となり、多くの筋肉を動かす役目をします。
膝を曲げるとハムストリングス(太股の裏側)が収縮し、大腿四頭筋(太股の前面)が拡張します。そして膝を伸ばすときは、両方の役目が交代します。
このように、ある動作において反対の働きをする筋肉を主動作筋と拮抗筋と呼び、それらの筋力に不均衡があると故障を誘発する大きな原因になります。
そのため、膝を守るためには、その周辺の筋肉群すべてをバランスよく鍛える必要があります。本記事のタイトルを「筋トレ」という単語ではなく「コンディショニング」としたのは、それが理由です。そのためにおすすめのエクササイズを、いくつか紹介していきましょう。
膝の故障を防ぐコンディショニングエクササイズ
スクワット
- 両足を肩幅ぐらいに広げて、まっすぐに立つ
- お尻を後方に突き出し、お尻が膝より低くなるまでしゃがむ
- 膝と腰を完全に伸ばして立ち上がる
押さえたいポイント
- 背筋の自然なカーブを維持する
- 視線は前方か、やや上向き
- かかとは常に地面につける
- 両膝をやや外側に開く
前後ランジ
- 両足を腰幅ぐらいに開き、まっすぐに立つ
- 片足を前方に大きく踏み出す
- 前の膝を直角に曲げ、後ろの膝を地面につける
- 前足を元の位置に戻して立ち上がる
- 左右交互に行う
押さえたいポイント
- 背筋は伸ばしたまま行う
片足ルーマニアン・デッドリフト
- 両足を腰幅ぐらいに置いて、まっすぐに立つ
- 上半身を前方に倒すと同時に、片足を後方に上げる
- 上半身が地面と平行になったら、一旦停止してバランスをとる
- 後ろ足を元の位置に戻して立ち上がる
- 左右交互に行う
コサック・スクワット
- 両足をなるべく広げて(肩幅の倍ぐらいが目安)、まっすぐに立つ
- 片足に体重をかけ、もう一方の足を横に伸ばして低くしゃがむ
- 体勢を低く保ったまま、左右の足を交代する
押さえたいポイント
- 両足のかかとは常に地面につける
- 伸ばした足のつま先は上に向ける
片足スプリット・スクワット
- イスやベンチの上(膝が直角に曲がる程度の高さ)に片足を乗せる
- 体全体をまっすぐに下げる
- 前足の膝が直角になる高さで一旦停止する
- 上体をまっすぐに保ったまま立ち上がる
- 片足で数回繰り返し、左右を入れ替える
どれくらいやればいい? 頻度や回数
週2~3回が目安
セット数や回数は、故障の状態や筋力によって大きく異なるため、具体的な数字は挙げません。もしすでに膝に痛みを感じているのなら、故障からの回復が目的です。ランニングの代わりに、これらのエクササイズを痛みが出ない程度に抑えて、週2~3回ほど行ってください。
現在は故障がないという人は、故障予防と弱点強化のため、ランニングの休息日に、これらのエクササイズを行うとよいでしょう。ただし、同じ日にランニングとエクササイズの両方を行うことはおすすめしません。
ダンベルやケトルベルで負荷を上げてもよい
また、写真はすべて自重のみで行っていますが、故障のない人はダンベルやケトルベルなどで重量負荷をつけるとさらに効果が上がります。その場合は、無理なく正しいフォームを維持できる重量を選んでください。
参照文献:
*1. Is There an Association Between a History of Running and Symptomatic Knee Osteoarthritis? A Cross‐Sectional Study From the Osteoarthritis Initiative.
Lo G., et.al., 2016
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/acr.22939
*2. The Proportion of Lower Limb Running Injuries by Gender, Anatomical Location and Specific Pathology: A Systematic Review.
Francis, P. et.al., 2019
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6370968/
[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
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<Text & Photo:角谷剛>