サッカー元日本代表・槙野智章さんが語る、“学生とプロ”の違いとは。当時のトレーニング事情を振り返る (2/3)
学業とサッカーの両立。広島ユース時代の生活
ユース時代はどういったトレーニングが中心でしたか? 集中して鍛えた箇所などは。
重量をつけたトレーニングや、下半身・上半身の強化をバランスよく行うメニューが多かったです。とくにお尻と下半身はとても意識して鍛えていました。チューブ(ゴム)を使って。お尻はアクセルになる筋肉なので、前に動く・跳ぶ・止まるなど、すべてにおいて大事だと思っています。
広島ユースでの1日のトレーニングの流れを教えてください。
練習前に、まず学校があります。学校から帰ってきたら、練習。その後に風呂や洗濯をして、寝る。この流れの中に筋トレを入れるって感じですね。筋トレはチームやるほか、トレーニング後に寮に帰ってきて、食事をして、風呂に行く途中にジムエリアがあるのでそのタイミングで30分ほど。寮のジムでやるときはセルフ、練習場のジムではトレーナーがついていました。
そのころ、意識して行っていたことは。
とにかく体を大きくすることを意識していました。メニューで言うとベンチプレス、スクワットなど。鏡を見ながらトレーニングするといいですよ。どこの筋肉が使われているのか、どこが使えてないのか見ながら行うのが一番いい。だからジムって鏡があるんです。
控えたほうがいいトレーニング方法などはありますか?
誰かに押しつけられて嫌々行うトレーニングは絶対やめたほうがいいです。嫌々やらされていると身につかないです。どういう意図でそれをやるのか理解して行う必要があるんです。たとえば“体を大きくしたい”と“動かせる筋肉をつける”は訳が違う。
80kgのベンチプレスを持てたとしても、試合中にその重さを持つことってないですし、筋肉をつけてもそれが重さとなって試合中に動けないなら意味がない。何のためにどこを鍛えるのか、トレーナーと話し合うことが大事だと思います。
体脂肪率や体重もそうですが、自分にとってのベストな筋肉量はどのくらいなのか、どのようにして判断するとよいでしょうか。
まず自分の体を知ることです。体脂肪率や全身の筋肉のバランスを測る機械があるので、そこで体重や筋肉量、体脂肪量や体脂肪率などをチェックしましょう。毎日体重を測って、寝る前と寝起きの数値を把握するなど、自分を客観的に知ることからスタートしてみるといいと思います。
プロと学生、その違いは。現役時代のトレーニング内容
プロに上がって、体づくりにおいて一番大変だったことは。
1年目のときはさすがに苦労しました。まず試合に出るための勝負があって、試合に出てからの勝負もあるので。
トレーニング視点でいうと、質と量が違いますね。プロの場合、量をこなすだけじゃなく、正しいやり方で行うとか、トレーニングのタイミングも重要になってきます。
プロになると年齢のリミットは外れますし、外国人選手もいるので、今のままでは通用しないというのは早くから感じていました。とくに体格は、プロと学生だと比べ物にならないです。お尻の筋肉もすごく大事だというのも再認識しました。
槙野さんが思う“最強のお尻を持つサッカー選手”は?
ウェズレイと長友さんですね。長友さんはお尻の使い方がうまいです。着地した瞬間、ユラユラせずお尻でピタッと止まる。まったく力を入れていないんです。
“プロのお尻”は、どのようにして作られるのでしょうか。
昔からいろいろトレーニングをしていても、いざプロになってお尻を鍛えようとしても、なかなか時間もかかるし、難しいですよね。僕もそうだったんですけれど、他の筋肉でカバーできている場合、ピンポイントでお尻を鍛えるとき、まず体の指令を変えなきゃいけない。
トレーニング方法としては、どう教えるといいでしょうか?
やっていくうちに体の癖とか分かってくるので、そこを変えていくことです。たとえば着地時にももの前側だけで止まろうとせず、お尻に意識を向けてとアドバイスするだけでも変わってくる。
自分は前ももが強くてお尻を使う意識が足りないと自覚できたら、お尻を使って着地するようなトレーニングを行う。逆のパターンなら前ももを鍛えるトレーニングをする。あとはプレー分析をしたときよく抜かれるなとか、よくこけるなとか、よく着地失敗するとか傾向を掴むと、筋力不足かなと分かるので、そこを鍛えていくアプローチもできる。
全員が同じ鍛え方をするのではなく、自分はどこが弱くて何ができていないのかというのを客観的に知ることが大事です。