ヘルス&メンタル
2024年8月8日

「相手を思いやり、和を重んじる日本人」…のはずが、なぜ誹謗中傷が相次ぐのか?その心理と対処法 (3/3)

(5)違いを間違いと捉える

「正しいことをしよう」この価値観を持つことは大事なことです。ただ、「正義は人の数だけある」とも言われます。自分の考える正義と他者の正義は、異なる場合があります。

スポーツであれば、勝利至上主義を持つ人もいれば、参加することに意義を見出す人もいます。ひたむきに取り組む姿に共感を見出す人もいます。そして、どの価値観を持つことも、それはその人の自由です。

ところが、歪んだ正義感を持つ人の中には、以下のような心理が見られます。

  • 違いを違いと捉えるのではなく、「間違い」と断罪してしまう心理
  • 正しいことを賞賛するのではなく、間違ったことを断罪する心理

(6)正しいこと vs 間違えないこと

「正しいことをしよう」と「間違えてはいけない」という言葉。この2つは似て非なるものです。では、誹謗中傷をする人は、どちらの言葉を用いるでしょうか。

答えは後者です。「間違ったことをした人を罰して、どこが悪い」という発言が多いからです。

ここで簡単なワークにお付き合いください。

1.「間違えてはいけない」と10回呟いてください
2.呟いた後、頭の中に思う浮かぶことや、身体が感じることは何ですか?
3.(深呼吸をしてリセットした後)「正しいことをしよう」と10回呟いてください
4.呟いた後、頭の中に思う浮かぶことや、身体が感じることは何ですか?

このワークに取り組むと、「間違えてはいけないと呟いた方が、嫌な感じがして身体が緊張する」人が多いです。もちろん個人差はあります。ただ、一般的には「間違い」というネガティブな言葉が、発言者の心身にも悪影響を与えます。

●目的志向型と問題回避型

ちなみに、「正しいことをしよう」という言葉遣いを目的志向型と言います。この反対に「間違えてはいけない」という言葉遣いを問題回避型と言います。

どちらも一長一短があります。ただ、欠点に目が向きがちな言葉遣いは、問題回避型です。つまり、自分や他者の欠点やミスを許せない人たちに多いということです。

そして、見落としがちなポイントが「心身を緊張させる」という点です。先ほどのワークでも実感できたと思いますが、問題回避の言葉遣いは、心身を緊張させます。

もちろん、この言葉を耳にする側も緊張を強いられます。

●「迷惑を掛けてはいけない」も、心身の緊張を強いる問題回避型の言葉

上述の(3)で「迷惑を掛けてはいけない」と述べました。この言葉も問題回避型です。迷惑という問題点を挙げ、それを「いけない」と禁止(回避)しているからです。

「迷惑を掛けてはいけない」と呟けば呟くほど、自分や周囲に心身の緊張を強いてしまう社会。

現代の日本社会を覆う、何とも言えない重たい雰囲気、この要因のひとつがこの言葉遣いにあると私は思っています。

白黒主義や完璧主義、問題回避型からは「心地よさ」が欠けている

ここまで、誹謗中傷をする心理について考えてきました。

すべてが当てはまるわけではありません。ただ、オリンピックを見る際、上記の(5)で見たように、「正しいことを賞賛することと、間違えたことを罰すること」この違いは大きいと捉えています。同じ白黒主義であっても、白と黒のどちらに目を向けるのか、という点です。

また、白黒主義や完璧主義、さらに問題回避型の発想に抜けているもの、それが「心地よさ」です。心地よさを求める最善主義という視点。次回の解決編では、これらの観点から考えてみようと思います。

SNSの誹謗中傷を減らすには、「法律の厳罰化」だけでは不十分!有効な対策を心理面から探る

著者プロフィール

佐藤城人(さとうしろと)

心理カウンセラー・心理セラピスト・気功師範。過去にアルコール依存症を患った経験があり、それを克服する過程で40代に再度大学に入学、心理学と出会う。各種依存症やインナーチャイルドを抱える方、さらには摂食障害の悩みなど、これまで10年間で約5000名様の悩みをサポート。摂食障害の回復プログラムの中で「正しさよりも心地良いダイエット法」を提唱する。2019(令和元)年一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会を設立。現在はカウンセラー・セラピストの養成にも力を入れている。https://www.in-ct.org/

<Text:佐藤城人、Edit:編集部>

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