インタビュー
2018年2月21日

82歳のマラソンランナー中野陽子さんが東京マラソン、そして2020年東京五輪で目指すもの【特別インタビュー】 (2/4)

「東京マラソン2018」 の目標は“現状維持”

——さて、いよいよ今週末に「東京マラソン2018」が開催されます。気持ちはいかがでしょうか?

「2016年から参加して、今年でもう3回目。それに、6ヶ月前からしっかり調整を重ねてきましたし、緊張したりすることはありませんね。でもたまに、当日会場に着いて、スタートに辿りつくまでに迷ってしまう夢は見ます(笑)。私はけっこう方向オンチなの。はじめて出場したとき、人も多いしどこに荷物を預ければいいかもわからないしで、迷いに迷って、結局トイレに行く時間もなくなったのを覚えています」

——それは怖い体験でしたね。

「それに、2016年の大会では世界記録を狙っていたのもあり、大会前日までメディアの取材を受けたり、当日もテレビが密着していたりと、普段の練習とはだいぶ環境が違っていました。自分では緊張していないつもりでしたが、平常心では走れませんでしたね。最後の38km地点で脱水症状を起こしてしまい、フラフラになりながら走りました。普通の状態で走ることがいかに大事か学びましたね」

——しかし、その失敗を乗り越えて、翌年の「東京マラソン2017」では80〜84歳の部で世界新記録を打ち立てます。

「2016年の失敗から、大変申し訳なかったのですが、メディア関係の取材はすべてお断りさせていただき、練習に集中できた結果だと思います。友人の応援さえも断っていましたから(笑)。『今年こそ絶対に世界記録を更新する』という目標を立てていたので、集中して、ひとりで気楽に走れる環境を作りました」

——今年も記録更新を狙っているのでしょうか?

「いえ、今年は記録更新できなくてもよいと思っています」

——えっ、なぜですか?

「今回は後方からのスタートなので、スタートラインを踏むまでにけっこうロスタイムがありそうなんです。だから、タイムがどうなるか正直わかりません。ただ、スタートラインを踏んでからの時間、いわゆるネットタイムでは1分は更新したいと思っています。ただ、『世界記録を更新する』という目標は2017年で達成したので、2018年はそれを追い越す人が現れない限り、私の記録が破られることはありません。ですから、タイムは現状維持で。でも少しだけいい記録が出せたらそれで十分です」

——では、練習内容も2017年とあまり変わらない?

「そうですね。私はランニングを始めてから10年間ずっとランニング日誌をつけています。その日に行なった練習内容や、何kmを何分で走れたとか、反省とか。私がいちばんできるようになりたかったのが、『後半でペースを上げる』こと。去年の東京マラソンではそれができたので、今年も去年のノートを開いて、去年と近い練習を行なっています」

——「後半でペースを上げる」……、やりたくても、なかなかできないことですね。

「実際、35km地点ではみなさんペースが落ちていますね。歩いている人も多いです。以前、応援に来てくれた私の友達は、『みんな歩いているほど大変だから、ましてや中野さんがこんなところにいるはずないわよね』って帰っちゃった(笑)。でも私は、走りはじめはペースを抑えて体力を温存して、35kmから『行くぞ!』ってスイッチを入れるの。それができれば成功です」

——ただ、いくら最初に抑えめで走っていたとしても、後半は確実に疲労が溜まりますよね。心を奮い立たせるコツはあるのでしょうか?

「35km地点からは、抜いた人の数をカウントするといいと思います。抜かれるより抜く方が気持ちいいでしょ? ひとりでも抜くと気持ちが上がりますよ。ひとりふたりと数えていって、『あ、自分の年齢の数だけ抜いた』とかね(笑)」

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