ヘルス&メンタル
2021年8月30日

わたしなりの不眠症との付き合い方│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#65

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニスて、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、心身の健康に必要不可欠な「睡眠」について。

ランニングを始めて数年間は、すっと無くなりました

 ずっと不眠に悩んでおります。

 私がジョギングやらトレーニングをするのは、単純に汗をかくのは気持ちがいいという理由もありますが、身体を疲れさせたいというのもあります。そうすればスッと眠れるような気がします。物書きという仕事柄、頭だけ使って基本はパソコンの前でじっとしています。集中して原稿を書いた日はベッドに入っても頭の中だけエンジンがかかっているみたいな状態で、これがどうにも寝付けない。せめて身体だけでもぐったりしてしまえば、上手に睡眠に入れる気がするのです。実際はそんなに思うようにはいかないのですが。

 夕食の後は原稿を書かないようにしております。コーヒーはマグカップで1日2杯まで&夕方以降はとらない。お風呂に入るタイミングも、できるだけ寝る時間を考えて入ります。ベッドに入る直前にお湯に浸かると交感神経が高まって良くないんだとか。

 ベッドサイドにはアロマを置いて、香りが眠りのサインだと自分に言い聞かせたりもしています。日中Tシャツで過ごしていても、眠るために似たような、でも別のTシャツに着替えたりもする。睡眠の時間だと感覚に認識させるのがいいと聞き、実践しています。なんですが、そんなことをちまちますればするほど「眠らなきゃ」というプレッシャーが芽生えて、余計に眠れなくなる始末。

 こんなふうなので、20年以上も睡眠薬を飲んでいます。病院で処方してもらっていて、その時の自分の状態によって、強めのものの時もあればそれほどでもない時もあります。なるべく飲みたくないのですが、飲まずに眠れる日は年に数日というレベルです。

 不眠の悩みを人に話すと、よくこう返ってきます。

「それなら、眠らないでずっと起きてればいいじゃない。あなたは毎朝出勤する必要もないんだし」

 うーん……。眠たいのに睡眠に辿り着けないから、ストレスなんですよね。とろとろしたまま、一向に眠れないというのはけっこうしんどい。第一、どんなに元気な人でも、きちんと睡眠を取らないと疲れが溜まってしまいます。

 睡眠薬も慣れてくると効き目が弱くなったり、いや、そんな気がするだけかもしれないのですが、薬を飲んで目をつぶっていても、だんだん頭が冴えてきてしまうこともあります。「薬を飲んだのに、もしかしたら眠れないかもしれない」と思ったら最後、本当に眠れない。さっきまで、あんなに眠気に襲われていたのに、暗闇の中で自分の心だけが煌々と灯を照らされているような気になってしまうのです。

 ランニングを始めて数年間は、すっとこういうのが無くなりました。毎日のように10キロとか15キロ走るので(大会前には20キロとか走ってた。もはや信じられない)、身体の疲れが要らない妄想を追い越してくれていたんです。やっぱり具体的な疲労って大切だなあと実感しました。

 しかし、それも慣れると妄想が勝つようになり、ましてや前のような距離は走れなくなってしまうとまた以前の不眠生活に逆戻りでした。走らないから眠れないし、眠れないから疲れるし、疲れると走れないし、の悪循環。なんだかヤバい人みたいになってますね。

 メラトニンも服用することがありますが、病院で処方される「睡眠導入剤」の威力には勝てません。なるべく服用しないでいようと思うものの、いざベッドに入るとこのままでは眠れないのではないかと不安になって飲んでしまいます。

 原稿を書くという作業には波があります。いわゆる「ノってきた」というタイミングが何度かあって、そうなると中断はしづらいもの。もったいないのです。もう一度、そこに自分を持っていくまでのエネルギーと時間はもちろんのこと、同じ景色が心の中に広がる保証はないですからね。

 そういう後はやっぱり眠れない。強めの薬を処方箋方ぎりぎりまで飲んでも、どんどん心に灯が灯ってしまう。眠れずに朝が来るといつもよりだるく感じることも少なくない。

 食べて、疲れて、寝る。この当たり前のサイクルを自分に植え付けたい。なんとかして悪循環を打ち切らなきゃ。身体を使うことの大切さを、そして健康の尊さを実感する日々です。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)。

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<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>